保管状態が劣悪環境のテープ

透過してみえるテープはアセテートベース
巻かれている間に隙間が出ている。

光が透けないのでポリエステルかと思えば、
テープが貼り付いて光が透けない。

数本デジタル変換依頼で送られてきたテープだが、全て裸の状態で箱に収められておらず、周辺環境の影響をモロに受けたテープである。どのテープも巻かれた状態は一見綺麗だが、光を透過して見ると巻かれた状態の間に隙間が見えてくる。コレがテープ変形している証であり、時間経過とともにテープベースが変形して(俗にいうワカメ状態)になっていると思われる。

テープを引き出して見ると、巻き初めからワカメ状になっていてテープベースが縮んでいるのが確認できる。ゆっくりと力をかけずに引き出していかないと、テープ同士が磁性体をベースに塗布するためのバインダー(接着剤)が溶け出して貼り付いているので、ゆっくりゆっくりとテープを引き出していくが、アセテートベースの場合、ベース本体も弾性が落ちて劣化しているので、すぐにちぎれてしまう。
こうなると、テープマシンにかけることはできず、ある程度の張力がかけられるところまで引き出すか、地道につないでいくしか方法はない。

最もテンションの弱い1モーター機で一発再生取り込みを開始するが、ワカメ状になったテープは再生ヘッドの上を通過することができない場所もあり、ヘッドパッドがついたマシンでも暴れてしまうことがある。現在ワカメ状になったテープの平面出しを研究しているが、1/4インチ(通称6ミリテープ)で片伸びワカメになっているとテープの上下動が激しく、キャプスタンとピンチローラーの間も通過できないで外れてしまうという困難な案件もある。平面出しだけならばどうにかなるが、片伸び解消はコレからの課題だ。何とか一発でデジタル取り込みができたら、コレは成功というしかない。
特にテープスピードが遅い場合などは音質云々よりも、当時の記録が再生できることが最優先となる。

一見綺麗に巻かれていたテープもあり「コレなら洗浄も可能だろう」とワインダーで巻き始めるとこの通りで、コレは5号リールに巻かれていたアタマ1/3くらいを巻いた7号リールである。激しいテープ変形で膨らんで変形したまま巻かれていくので、テープベースはとりあえず張力を与えても大丈夫なようだが、ワカメ変形だけはどうしようもないので、このまま下にリールに手作業でゆっくり戻し、一発再生でデジタル変換する。頭が再生できないと、テープ速度やトラック数もわからないで、音がで始めるところをヘッド面に擦り付けてどのような状況になっているか判断する必要がある。

5号リールに巻かれていたテープをワインダーに巻いてみたところ。右は7号リールである。ちょうどよい大きさ?だった。元の見た目は問題なかったが、違うリールに巻き始めると変形したテープの形状が合わなくなるので、当然隙間ができて巻かれていく。こうなった場合は裏面を先に(2トラック・モノに場合など)デジタル化を行い、オモテ面はその後になる。こういう状態の場合は再生後テープ破棄の旨を所有者に伝える。なぜかというと、7号リールでちょうどよく変形テープを巻いたサイズなので、5号リールに戻すのは不可能だからである。

一発勝負でデジタル化を行いながら、テープ後半に差し掛かったところで、テープが破断し始めた。指で摘んだりするだけで簡単にちぎれてしまう。リールの下に見えるテープの残骸もそれで、できるだけ長い部分は修復して再生していくが、アセテートベースの保管状態が悪いと劣化で粉々になってしまう。張力には全く耐えられなくなって粉体化してしまうのだ。

このテープはこれ以上再生不可能で、巻かれている部分が完全に固体化して塊になっている。こうなってしまうと再生どころではない。リールの隙間が3カ所しかないので、テープそのものを緩めていくこともできず、コレは100番なので50ミクロン厚だが、痩せてペラペラの状態になっていた。それでもリール1〜2回転分くらい伸ばせれば修復して再生は試みている。

破断修復をしているところだが、本来右に見える溝にテープが収まるのでマスキングテープによる固定は全く必要ないが、粘着力を極端に弱めたマスキングテープで仮押さえしないとテープが逃げてしまう。さらに左端のテープが破断しているが、コレは修復している時に弱っている部分が再破断した場所で、いくら修復をしてもキリがない状態に陥った。わずかでも修復できれば再生できるが、こうなるとマシンにかけることもできなくなるので、リール巻き取りはやめて再生しながらゴミ箱行きになることもある。

テープのエンド部分だが、ボロボロの粉々になっているのがわかるだろうか。

先ほどの固着した部分はそうにもならないので、破棄前提でカッターでカットした部分。できれば再生できた部分は返送したいので、リールに戻す前にリール洗浄を行ってから、長尺部分を手回しで戻していくための準備である。この塊は分割ができず、分厚いひと塊になっていた。

破棄前提で再生しながらデジタル化を行った後のテープだが、リールに巻かれることなくゴミ箱直行した後に手で軽く持ち上げて握ってみるとあっという間に粉々になってしまう。テープそのものに弾力や保持力はなく、耐久性は全くない。こうなると、見かけ良くてもどのA to D変換をしているところでは断られるだろう。もはやテープではない。

通常デジタル取り込みを行うと、テープが正常であれば紫色の状態で、テープ頭から最後まで綺麗に取り込みができる。ところが上のピンクの状態はテープ破断の度にマシンを止めて、また再生させて取り込みを繰り返すので、データー上に縦線がたくさんあるのがわかる。ここまで多いと他メーカーさんはやらないだろう。

破断したデータはできるだけ取り込んで、どうしてもテープパス(リールからリールまでの長さ)が必要になり、さらに破断修復でもわずかにテープを切って繋ぐので、どうしても再生データーは断片的になってしまうのだが、それでも聴いてできるだけ違和感のないようには最終的にデジタル上で接続する。

テープはどのような保管状況でも再生できるわけでなく、かなり一発勝負で取り込みするようなものが多いので、所有物件があれば、早めに連絡をいただいた方が、再生確率が上がります。

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