保管状態と製造メーカー

先日デジタル変換をオーダーされたテープが送られてきました。見た目(リールに巻かれた状況)の目視は綺麗ということでしたが、当時もののビニール袋から取り出したところ、驚くほどのワカメ状になっていました。

写真を見てわかる通りに、このままでは再生機器にかけるどころか、洗浄すらできません。少なくとも平面が出ていなければ再生ができないからです。
この写真を先方に送付して「音の頭が欠けるかもしれません」と了承をいただき、数メートル引き出してみたところ、ワカメ状ではあるものの、どうにか平面になっているところまで引き出せましたので、そこでカットして、貼り付きなどを確認するために、一番テープテンションが弱いと思われる「NAGRAⅢ」にかけて回してみました。

写真でもかなり波打っていますが一応平面は出ているので再生できるかもしれないと、走行させてみましたが、今度は10秒ほどでマシンが止まってしまいます。
この時点で走行をやめ、窯入れしてみることにしました。マシンが止まった理由はテープ同士が溶け出したバインダー(テープベースと磁性体を貼り付けている接着剤のようなもの)によって張り付いていると思われたからです。
60度で5時間ほど高温乾燥(窯入れ)してみましたが、やはり貼り付きは改善されず、さらに5時間ほど窯入れし、完全冷却を待ってから再度走行させてみました。まだこの時点ではテープワインダーでの走行ですが、やはり止まってしまいました。

貼り付いたテープ同士の改善はもちろんのこと、溶け出したバインダーと磁性体が完全な粘着質になっていて、さらに乾燥したことによってテープベースからも剥がれていくという状況です。こうなると剥がれた磁性体はベタベタとしたもので、ワインダーを手回しでゆっくりとテープを送って行っても写真のような状況で剥がれていきます。この時点で再生は諦め、先方にこれらの写真を送り、1本は諦めていただきました。
剥がれてしまうと元のテープ幅に戻すのは困難であり、磁性体は粘着質物質に変化していますので、万が一再生可能だとしても、テープヘッドや走行に関係するものに張り付いて巻き込んでしまいます。

写真のくちゃくちゃになっているのが剥がれた磁性体です。なんとか再生できたらと思い努力しましたが、このような状態では機器にかけることすらできませんでした。

相当時間経過している(このテープは60年あたり経過しています)ものですから、保管状況について問うことはできませんが、高温多湿で保管されていたものはこのような状況になりがちです。一番多いのは目視で白いカビが生えているものですが、今回カビは確認できませんでしたので、テープ製造メーカーによっての個体差ではないかと思います。
この時には同時期のソニー(Soniブランド)、東芝、NECの3本で、Soniが一番古いと思われますが、若干ワカメ、東芝は綺麗な状態で洗浄時に磁性粉汚れ多め(簡単に再生できました)NECはこの酷い状況でした。

再生できないものはデジタル変換できませんので、3本お預かりして2本だけの請求とさせていただきました。

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